例会報告
小池 百合子氏

第6回政経・文化サロン「YURIKO SPECIALトーク」

 
日 時 : 平成21年3月14日(土)
場 所 : 京都ブライトンホテル
ゲスト : 小池 百合子氏 (元防衛大臣 衆議院議員)  
インタビュアー: 村田 晃嗣氏 (同志社大学法学部教授)
テーマ : 「地球と日本の守り方」 
 


今回の経済人クラブ、政経文化サロンでは、元環境、防衛大臣の小池百合子氏にお越しいただいて「地球と日本の守り方」について講演していただきました。

● 中東での経験
日本のアキレス腱はエネルギー、なので資源国の言語スキルがいずれ必要とされるときがくると確信。
そして男社会を生き抜く「技」となるべき言語、アラビア語を習得。以上の分析と戦略が、アラビア語という切り口から社会にかかわることになった理由だ。

● 百年に1度の危機?
元 FRB 議長のグリーンスパンをして「百年に一度の危機」と言わしめたこの不況を私たちはどうやって乗り越えたらよいのだろうか?オバマ政権は環境問題へ意欲的であるが、そのことが今後に与える影響を考える。まずは今後注目すべきこととして、排出権取引という新たなビジネスモデルが展開されることだ。サブプライムローン問題の二の舞にならないよう、アメリカ主導に甘んじることなく、日本は積極的にルール作りの段階から関与したい。次に、この危機を乗り越えるのに有用な日本の3つの「もったいない力」がある。それは、環境力、女性力、金融力であり、この3つの日本の持ち味をバランスよく循環していきたい。その際、特に環境・エネルギーに関してだが、もう日本に石油は来ないというレベルまで国民一人ひとりが自覚し、意識を高める必要がある。現在、 UAE のアブダビ政府が行っている「マスダール計画」は、持続可能なエネルギーの開発と普及のために2兆円で石油を使わない町を作ろうという試みだ。産油国である UAE でさえ、石油枯渇に先手をうたなければいけないと考えているのだから、資源に乏しい日本はもはや石油はもう来ないと認識すべきだ。

● 積み残した経済政策
今だからこそ、このタイミングで積み残した経済政策をやるべきではないか?しかし単に雇用を生むための「事業」という
認識でいては、ただの利権の取り合いになってしまう。夢や希望につながるような「まちづくり」としての認識を持って取り組むことが必要だ。霞ヶ関に丸投げせず、次の世紀につながる仕事をしていきたい。

●次の世代につなげる仕事の具体例

◎具体例 1): リチウム電池で走る電気自動車
ガソリンに代替するエネルギーとしてリチウム電池に着目。リチウム電池自動車に関してはもう完成しているが、一般的に普及されるためにはいくつかの課題が残されている。電気自動車に対応したインフラ整備の必要、電池の信頼性の問題、部品数が一般自動車に比べ少ないことによる部品工場数の減少、自動車関係税の問題などである。

◎具体例 2):  クールビズ
これは皆さんご存知のとおり、自身が環境省時代に実現。クールビズのような、マクロな問題に、ミクロな手法から取り組む一転突破・全面展開の姿勢を心がけている。

◎具体例 3): ecoda house
太陽光発電、燃料電池、地中熱利用を利用したエコハウス。これらに基準を設定し、基準を満たしたものに ecoda house の称号を与え、ブランド化し全国に 10000 件展開を目指す。

●新しい政治の枠組み

・気候安全保障の考え方
北極海航路の出現により、領土、資源紛争が起こり、軍事活動の様相も水面下で変わっている。これらに対峙するに、地球温暖化と気候変動に着目した安全保障である気候安全保障の考え方が欠かせない。気候変化により、農産物が変化すればテロすら発生しうる。防衛、環境相の経験を生かして、防御・外交・食料・エネルギー・気候変動・感染症などに特化した安全保障会議の設立を提案する。

・内閣予算局
予算の省庁縦割りは無駄であることから、内閣予算局の設立を提案する。

●オバマ政権との日米環境提携はありうるか?(同志社大学村田先生よりの質問)
アメリカは産油国であることを忘れてはいけない。日本とアメリカは環境に取り組む目的が違う。反米である中東、ベネズエラからのエネルギー確保の抑制、つまりは安全保障が目的である。しかしアメリカと足並みそろえて、環境議論に中国を引き込むことは可能だろう。

●安倍内閣で取り組んだ集団的自衛権問題が硬直しているが?(同上)
世界には総合的な安全保障をつかさどる人のコミュニティが存在し、やっと日本にも総合安全保障に関わるポストができたか、というのが世界の反応であった。コミュニティに参加しないことには情報シェアができずマイナスが多いので、ポストを早く設置すべき。憲法改正についてはソマリア沖で日本の財を守れない憲法はどうなのか、現場を困らせるような憲法はどうなのか。安全保障について党内で意見がまとまっていないことも問題だ。民主党は政権交代を目標にしているので安全保障問題が宙に浮いているように思われる。

●今後の女性の役割とは?(同上)
育児休業中の女性が派遣の首切りにあうこと、働いていると家庭の楽しみを得られないのは意識的、制度的欠陥。まだまだ女性の活躍の余地はある。

●これからの政局の安定は?(同上)
まとまった安全保障政策を打ち立てることによって政局が安定するだろう。政権交代により政治的空白が生じることは日本の 21 世紀の立ち位置を左右する。安全保障意思決定に関して言うと、中国の決定スピードは脅威だ。ソマリア沖へ自衛隊派遣では迅速な対応を見せた。日本は大きな問題に対峙する場合は、政治を休戦して与野党の大枠を無視して迅速な対応を目指しても良いくらいだ。(この発言に対し、民主党参議院議員・福山哲郎氏が「有権者、マスコミが自民と民主の協定を妥協と評価しないような次のステップの民主主義を目指したい」と発言。それに対し)日本のマスコミは 55 年体制の見方しかできておらず、国民の意識を古いほうに固定しようとしても読者が離れるだけではないだろうか。

●マスコミと政治のかかわり
(自民党衆議院議員・井沢京子氏の「今は政治よりマスコミが強い。事実が伝わりきっていない。」という発言、朝日放送・小関道幸氏の「メディアが視聴者をおきざりにして一極集中している」という発言に対し)日本は何か一つのことが起こると全員がそればかり追いかけてしまう。それは日本の強みであると同時に、ニクソンショック等の突然変異に弱いという側面も併せ持つ。時流に流されずいることは大切である。政治家批判ばかりさかんな今のままでは、優秀な若い人にとって政治家が魅力的な職業でなくなる。政治をする人がいなくてジャーナリズムばかりが増えてしまうのでは?


○感想
今回の講演により環境、安全保障問題にますます考えさせられる事となりました。講演の内容の充実と、小池さんの持つ知的で華やかな雰囲気により、密度の濃く思い出深い政経・文化サロンとなりました。政界のキーパーソンである小池百合子氏の今後の活躍に期待です。

 
【レポート:菅原聡子 京都大学二回生】