例会報告
安倍 晋三氏

第9回政経・文化サロン「プレミアムトーク」

日 時 : 平成23年5月21日(土)
場 所 : 京都ブライトンホテル
ゲスト : 安倍 晋三氏 (第90代内閣総理大臣 衆議院議員)
対談 : 杉岡 秀紀(同志社大学政策学部講師/経済人クラブ事務局長)
テーマ : 「素晴らしき日本、誇りうる国」 
 


「人生で最も体調が良い時である」

安倍氏はこう切り出したから、この日参加した 100 名を優に越える観客は涌きたった。

今、眼前で語り出す安倍晋三氏の言葉一つ一つに、観客の期待が垂涎のごとく引き寄せられていることが、ひしひしと伝わってくる。未曾有の震災の傷癒えぬこの国について、何を語ろうとしているのか―。歯がゆく、もどかしい日々が続く中で一筋の光を見出すきっかけを観客は欲していた。

安倍氏は続けた。

「リーダーの決断が結果を左右する」

先の震災で、大津波の来襲に対し、波に向かって進んで行き 、 生活の術=漁船を守り抜き助かった漁民の皆さんの例を出し、正しい判断を下すリーダーの必要性を説いた。すなわち、現在最もこの国に必要とされている真のリーダーについての、思いのこもったメッセージと観客は理解したに違いない。

安倍氏本人にとっても、民主党政権に変わり、その中での大震災とあって、「復興会議」にしても、原発対応にしても、もどかしい以外のなにものでもないという思いがある。安倍氏が一貫して主張しているのは、この国の潜在的な力である。

現政権で生かしきれていない、実現できていない、この国の資源力、経済力、文化力といったものに、安倍氏は今後への大きな可能性を見出している。例えば、先のTPP論争にもあるように、日本の”農業力”についてその自給率をはじめとして問題視されることは多いが、安倍氏は

「先進国の自給率は決してどこも高くはない。そして日本の競争力が低いわけでもない。」

と言う。

ただ、問題は国家的戦略で考えられているか 、 そこが課題であると指摘する。代表的な事例としてあげたのが、「お米」に関する安倍氏の経験であった。 10 年前、非常識とされていた”国産米の海外輸出”。

しかし故・松岡農相(当時)は「日本のお米はダイヤモンドで、水晶とダイヤモンドを比較する人はいない。ダイヤモンドのよさは、高くても認められて質が良いと売れるはずだ」と安倍氏に言った。事実、中国・温首相夫人は来日時、三越のデパ地下で国産米を購入して帰ったというし、それを伝え聞いた小泉首相が「炊飯器も」と薦めるとそれも持って帰られたというから安倍氏はその魅力の強さを確信した。そうしてその後安倍政権時代にはその輸出を実現している。

ポイントは、まじめにいいものを作っている日本の農家が、

・ どこに売れば高く売れるのか
・ ニーズは何なのか
・ どう営業すればうまく売れるか
・ どうやって広告すればいいのか
・ どうすれば輸出をできるのか

これを考えることだと安倍氏は話す。日本の国力はこれを考えるに十分値する国であり続けているし、考えられる事がすなわちチャンスであると。

ここ 10 年間で最も株価が高かったのは安倍政権時代である。 1 万 4 千円から 1 万 8 千円を記録していた。年金の運用の一部は株によるものであるが、安倍政権下の1年で年金の運用は5兆円厚くなったという。少子化による減収をはるかに上回るもので、生活保障のために大事であることは言うまでもない。

「強い社会保障とは出来もしないことを約束するのではなく、経済基盤を強くすることが大事」

と安倍氏は言い切るが、それは現政権へのアンチテーゼ・メッセージであろう。

”一人一人の生産力を上げるために、新しいイノベーションを起こし、ビジネスアイディアを出し、建設的な取り組みを増やしていき、そしてアジアの市場を視野に入れたオープンな経済活動を行う。”

講演が始まって間もなくから、会場の空気は引き寄せられていった。上記の『首相経験者』の言葉に”経済成長をしないで財政再建を果たした国はない”という強い信念がにじみ出ているからである。

そして、後半のクロストークにおいても、首尾一貫していた事がある。それは時にタブー視されることもある”この美しい国を守る”というテーマである。

1996年にアメリカの対北朝鮮融和政策として「米の無償提供」が決定された際、安倍氏は拉致問題ある中での無償提供について、アメリカ国防長官(当時)に異を唱えたが、

「拉致に対して、日本は軍事行動を起こせないでしょう。出来るのは、お米を送る事でしょう。出来る事をしてもらいたい」

と返されたという。これにも表われているように、憲法・日米安保・損得を価値基準重視してきた”戦後レジーム”からの脱却を、日本は果たせていけるのだろうか。

安倍氏の警鐘は続く。

「戦後、日本人の精神構造をつくってきたこれらの戦後レジームから、時代の変化に即した脱却を果たしていかなければ ならない 」

安倍氏は首相の座を離れて以降、ひとつの”充電”期間を終えたといえるのではないだろうか。

本人を長年苦しめてきた病から解放され、そして我が国は未曾有の震災に遭い、経済的にも窮状の中にある。この国の美しさに向き合ってきた稀代の政治家安倍晋三氏に、大きな役割が期待されているのは間違いないだろう。安倍氏の一挙手一投足は、どう日本を切り開いていくのか。期待膨らむ講演であった 。


 


 

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【文責:佐野 正明】