例会報告
千住 博氏

第11回政経・文化サロン「京・夏まつりトーク」

日 時 : 平成24年7月28日(土)
場 所 : 京都全日空ホテル 平安の間
ゲスト : 千住 博氏(日本画家/京都造形芸術大学長)
テーマ : 「海の向こうから見えたNIPPON〜世界に発信する日本の芸術文化力〜」
 


今回のサロンの講師である、日本画家の千住博先生は長らくニューヨークで活動されてきた。先日の講演では日本で生活していると感じることの難しい、海外から見た日本の印象について語っていただいた。


「日本の美」

日本の文化は、日本の気候風土に伴い発展してきた。夏は暑いので浴衣やうちわが生まれ、そのような人間の工夫により新たな文化が誕生し、続いてきた。
現代の日本人は、夏は涼しい、冬は温かい、夜は明るいという事を文化・文明であると感じるようになった。我々は、自然が人間の力で操作できるものと過信していた。文化・文明というのは自然を力で操る事ではなく、自然といかに馴染むかである。

そして、そのような自信を打ち砕いたのが、先の大震災だった。
震災は、海外からも大きな注目を集めた。アメリカでは、同時期に起こった大規模停電と比較され、日本人の「秩序ある行動」が報道された。海外メディアはそれらを「日本的な美」と表現した。

しかしこれは「日本的な美」などではなく、教養ある人間の行為である。それらを「日本的な美」とするならば、海外の言う「日本の美」とは「自己犠牲」、「調和のあふれた関係」となる。果たしてこれが本当の「日本の美」なのであろうか。


「コンテンツ産業」

昨今、今後の日本の文化の顔として「マンガ・アニメ」のようなサブカルチャーが挙げられる事が多い。日本の政府もこれらサブカルチャーを「クール・ジャパン」と称し、海外への売り込みを狙っている。しかし、実際に海外ではこれらサブカルチャーは重点的に取り上げられている訳ではない。海外で「日本の文化」として憧れを抱かれているのは、京都や奈良などの「クラシック・ジャパン」である。
10 年ほど前までは、これらサブカルチャーも日本の文化の中の主産業の 1 つであったが、近年は中国や韓国の方が伸びが大きく、競り負けているのが実情である。


「芸術大国 日本」

千住氏は、「日本は芸術大国である」とおっしゃった。
日本で生活している身としては、「和風」というものが何なのかという事を感じる事は難しい。千住氏のおっしゃる「和風」とは、「ある一定条件の元、異質なもの同士がハーモニーを奏でる事」である。日本人にとっての宗教も同様に、調和して、異なる考えの人々を組み合わせ、ハーモニーを生み出すものである。
芸術も、これを同じように異なる者同士がコミュニケーションを取ろうとする事の表れである。「日本=芸術大国」という考えはここから来ているのだろうか。


「羊と人間」
「美しい」という漢字は、「羊」と「大きい」を合わせた漢字である。人と羊が共に暮らし始めたのは 4400 年前。羊は食べる事ができ、乳を飲め、皮を着られる、人間に豊かさをもたらす存在であった。「羊が大きい」という事は、豊かさを表し、生きる喜びを表している。

芸術とは、「美」という生きる喜びを使い、人とコミュニケーションを取る事である。
「小さな芸術」という人と関わりあう気持ちを皆が自覚し、芸術的な発想を持つ事が「和風」の精神へとつながっている。


海外の人々が震災に襲われた日本を見た時に感じた、「自己犠牲」や「調和のあふれた関係」というものは最終的に「和風」の考えへとつながっている。海外から見た日本の良さとは、人と人とのつながりを大切にした「和」の関係ではないだろうか。

    【文責:河内 祐樹(学生スタッフ)】

 


 

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