例会報告
井上和彦氏

第13回政経・文化サロン「新春トーク」

日 時 : 平成26年1月18日(土)
場 所 : ANAクラウンプラザホテル京都 平安の間
ゲスト : 井上 和彦氏 (軍事ジャーナリスト)
テーマ : 「日本を取り巻く安全保障環境のいま」
 


はじめに

八か月ぶりの開催となった政経・文化サロン。今回はTV番組でもお馴染みの軍事ジャーナリストの井上和彦先生をお招きし、現在の日本が直面している防衛・外交問題について語っていただいた。

「メディアリテラシー」

現在の日本の諸問題を複雑化させている根源はメディアの報道姿勢にある。問題の一部分だけにスポットを当て、全体的に物事を俯瞰する視点を失っているのである。
昨年末の安倍総理の靖国参拝、本年1月に発生した海上自衛隊のおおすみと漁船の衝突事件の報道においても、一部報道機関では事件の本質から逸脱した内容にまで言及し、いたずらに不安をあおる姿勢が見て取れた。
このように日本の政治問題、突き詰めれば安全保障問題も含め、その一端を担いでいるのはメディアの報道姿勢である。周辺諸国の対日外交戦略が活発化する中で、国内で足の引っ張り合いをしていては到底この「外交戦争」に勝利することはできない。

「中国の目的」

昨今、中国海軍による沖縄や小笠原近海への領海侵犯が問題となっている。日本国内ではこれに対し、「尖閣問題での牽制行為」といった見方が主である。しかし実態はそれとは異なり、中国の真の目的はその先にあった。
中国の外交標的は一貫してアメリカである。沖縄、小笠原近海の示威行動は全てグアム進出計画の一端であり、中国が太平洋へ進出する際の進路を塞ぐ沖縄、沖ノ鳥島などの島嶼周辺の現地調査を目的としていた。
尖閣の問題は本質ではなく氷山の一角に過ぎず、改めて中国の明確な「脅威」を感じとった。

「日本の自衛隊、少ない??」

現在の日本の自衛隊戦力は陸海空を合計して24万人。昨今の我が国の武器装備、艦船や航空機に関して過剰であるという意見も一部からは出ているが、果たしてこの数字は適性なのだろうか。
他の先進国の軍人と民間人の割合を見てみると、概ね軍人1人に対し民間人250人。はこれに対して日本は軍人1人に民間人540人の命がかかっている事となる。これでは我が国は周辺の国が声高に叫ぶ「軍事大国」には程遠く、実態は「軍事小国」である。
その穴を埋めているのが、沖縄や岩国に駐留している在日米軍である。最初の安保条約から早60年、日本は常に米軍戦力へ依存しながら国を防衛してきた。
しかし、アメリカがいなくなればどうするのだろうか。たちまち日本の防衛、防災の穴は広がり、国家の一大事には到底対応できないであろう。
そのような中で浮上するのが、いかにして対外抑止力を確保するかという問題である。日本のみの力で相手に先手取られないためどう備えるべきか、今日本人は国家の防衛問題に真剣に向き合うべきである。

「基地反対運動の陰で」

先日沖縄県名護市の市長選が行われた。この選挙の論点は「辺野古への基地移設の是非」であった。
沖縄での基地反対運動が起こって久しいが、我々普段遠く離れた本州で生活している人間にとって、沖縄の様子を知る手掛かりはメディアの情報に限られている。
しかし反対運動の報道はあれども、基地に対して好意的な地元住民の行いは我々の耳には入ってこない。沖縄の基地問題での地元の主張を、反対一辺倒に捉えるのではなく、それらとは対照的な意見も同時に存在している事を考えるべきであろう。

おわりに

今回の井上先生のお話の中で浮かび上がった事は、日本人、また日本全体が物事の「本質」を見る能力を持ち合わせていないという現実だった。

そのような状況下において、我々には自国の置かれている状況を報道や周囲の情報だけにとらわれず判断し、内外の政治外交事情を俯瞰的に見ていくひとりひとりの地道な努力が求められているのではないだろうか。



    【文責:河内 祐樹(同志社大学3回生・学生スタッフ)】

     
 

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