例会報告

【第565回10月大会】

 
日時:平成16年10月21日(木)
場所:京都全日空ホテル
ゲスト:玉木正之氏(スポーツジャーナリスト)

第565回大会は、玉木正之氏を迎え京都全日空ホテルで開催されました。

■はじめに−プロ野球界の矛盾と問題■
まず、昨今のストライキ問題には触れないといけないでしょう。この問題の裏にはプロ野球界を牛耳っている人たちの行動が 見え 隠れします。既存の利益追求を目的とした球団経営のあり方では、革新的な変化は期待できません。新規参入問題についても話題のIT企業の裏には既存の野球界のプレッシャーを感じるし、ただのマイナーチェンジでは時代の流れに対応できません。
私は現在のプロ野球界は全くのゼロからスタートすべきで、ゼロからスタートして再構築されたきちんとしたものが出てきてほしいと 思っています。 だが、こういう話をしても一般の人たち、50歳より上の方の多くは「野球はどうなってもいい、たいしたものではない」と思っている。 昔はスポーツをするとバカになるという考えが当たりまえだった。今もその考えが社会を占めていて、スポーツに対する価値観が低い原因となっている。そこからスポーツ選手が社会で正当な評価をされていないのではないかという問題がでてくる。さらに踏み込んで我々(熟年世代)はスポーツの重要性を本当に知っているのかということが問題です。

■各論−スポーツと政治■
スポーツは政治的重要性を持っています。オリンピックで北朝鮮と韓国が統一旗を持って入場することは、国連の場で何回スピーチするよりも重要です。ドイツも統一旗を持って東京オリンピックで行進して、実際に統一を成し遂げました。これは、スポーツの場が政治的アピールの場として、政治的にも重要性を示す一つの証拠です。 2008年のオリンピック開催地が北京になったのも政治が関係しています。オリンピックに協賛しているアメリカ企業が中国での マーケットを意識しており、アメリカの企業が活動を行いやすくできるようにアメリカの政治的意図があると理解できます。

■各論−スポーツと経済■
このように政治が絡むということは、政治と切っても切り離せない経済もスポーツに関係が深いと言うことです。アメリカでのスポーツ市場は95年のデータで見ても20兆円産業です。これはかなり大きい。日本を見てみると、今までスポーツと言うくくりでデータが取られたことがありませんでした。そこで経済産業省が家庭の支出から試算してみると国民総消費のなかで5兆円を占めていることがわかりました。これにより経済産業省もプロスポーツ研究室を設置するなどスポーツが経済的に重要であると認識され始めたことは評価できることです。
さらに、スポーツと経済について特徴的なものがアメリカのナショナルスポーツです。簡単に言うと全世界からアメリカに選手を集中的に集めて、その試合の影像や関連商品を世界に配信することでアメリカのスポーツ文化を輸出しているのです。ポスト工業化の社会の中でこれは当然の成り行きであるといえます。アメリカ文化が輸出される中で、日本がスポーツも映画などと同様に貴重なソフトウェアとしての重要性を認識しているかが問題です。

■各論−スポーツと人間の未来■
パラリンピックについて少し話をすます。今年のアテネでは、もう少しで100メートル走で世界記録に迫る記録が出ました。世界記録を更新した場合、その記録は世界の記録として認められるのでしょうか。障害者の方は義足を使ったり、病気の関係で薬を使ったりしています。つまり、機械を使用して、薬を使用する、つまりドーピングしていることになるのです。ここで「病気を治すためのドーピング」と「競技力を高めるためのドーピング」をどこで線引きするかが非常に難しい問題です。
この問題を近い視点と将来の視点から見ていくと、我々の体がどうなるのか、人間という定義に関わってくる問題です。昔はなかったものが人間に加わることで、人間の可能性を広げていくことになる。その拡大がどこまで許容されるのか、どこまでが人間であり体であるのか、それを実験しているのがスポーツの現場なのです。そうなると、“体”ということをもっと真剣に考えていかなければならない。
つまりパラリンピックなどによりスポーツが人間の将来像を捉える上での重大な実験をしているといえます。

■各論−スポーツと地域■
スポーツ界では地域密着と言うフレーズが叫ばれて久しい。では、地域密着とは何なのか、その反対語から考えていきます。地域密着の反対語、それは「全国制覇」です。日本野球界で企業が球団経営を行う目的は、商業において全国制覇したいからです。全国制覇の考え方では野球を広めようと言う考え方がありません。野球を手段として商売上の全国制覇を狙っているのです。今のIT企業の野球界参入についても全国制覇を狙っているのではないでしょうか。これも2008年の北京のオリンピックの影が見え隠れします。
野球の全国制覇と対比としてサッカーを見てみます。Jリーグではスポンサーに関する規制を強化して、球団自身が自立して地域密着でファイナンスを行う方針を貫き、スポンサーからの協賛金に依存しない体制構築を行っています。スポンサーとの関係性よりも地域との関係性を強めている良い例であす。それが、野球では地域密着といいながらも結局は企業の経営手段として全国制覇のツールとなっているのです。

■おわりに−スポーツの重要性■
日本における今までのスポーツは、政治的な面、経済的な面、今後の未来、地域に関しても、今までは“何か”を達成するための手段でした。だが、今はスポーツそのものが儲かるし、大事であるということが実態として出てきました。それを日本国民がどれだけ早く気付くことができるかが問題です。スポーツは廃れるということはなく、世界中の人が体を使ってコミュニケーションを行うソフトウェアなのです。

ポスト工業化社会の中での文化産業としてのスポーツの重要性を認識することが今後、さらに重要となっていきます。

(同志社大学・経済学部3回生 栗栖智宏)