例会報告
城内実氏

【第578回忘年会】

 
日 時 : 平成17年12月5日(月)
場 所 : 京都ブライトンホテル
講 師 : 城内 実氏(前衆議院議員)
テーマ : 「信念を貫いて」〜なぜ、郵政民営化法案に反対したのか〜



第578回忘年会は前衆議院議員の城内実氏をお招きして、京都ブライトンホテルにて行われました。

<講師講演>

信念を貫いて

本日は、お招き頂きまして大変光栄に思っております。「なぜ、郵政民営化法案に反対したのか」を中心に、皆さんの期待に応えられるようにしっかりとお話させて頂きます。さて、私の近況ですが、現在はお蔭様で通信制の私立高校の非常勤講師をさせて頂いており、失業の身は免れました。それでも生活は厳しいもので、まさに臥薪嘗胆の日々を送っております。
それでは、少し私の自己紹介をさせて頂きます。私は14年間外務省に勤め、3年前に退職しました。辞表を妻に見せた時には、二人の子供の生活はどうするのかと非常に驚かれました。私自身、猪突猛進型の性格ですので外務省を辞める時も突き進みましたし、その結果が今回の選挙のような結果となったのかと思っております。しかし、ピンチはチャンスと言うように、落選したにもかかわらず取材や講演依頼がある。それは、城内実が郵政族でもないのに反対したのは何か理由があるのだろうと思って頂けたのでしょう。生活は苦しいですが、慎ましく、信念を貫き、国の為に頑張っていきたいと思っております。

外務省、そして政界へ

私が外務省に入省したのは、日本の国益を守るには外交官しかないと考えたからです。今までの日本の外交は日米同盟を前提とした、いわば「ことなかれ外交」です。例えば、田中真紀子氏が外務大臣の時は外務省が荒れました。田中氏は会議にも来なければ、普通2,3人の秘書官を5,6人も使う。外交は副大臣に任せっぱなしです。又、鈴木宗男氏のロシア外交への介入で、ロシア担当者の中には派閥のようなものが出来てきます。そのような事態でも、お茶を濁す先輩の姿を見ていて外務省のレベルの低さに呆れました。外務省に留まっていれば安定した生活が得られますし、外交官の待遇はとても厚いです。しかし、志を立てるため、私は退職しました。
2003年、最初の選挙では、当時、保守新党代表だった熊谷弘氏の対抗として声がかかりましが、熊谷氏との調整のために比例出馬との話が出たのです。しかし、何もしないで当選するのはおかしいと思い、無所属での立候補を決意しました。公認と無所属では条件的には大変不利です。ポスターを貼れない、チラシ・葉書の枚数制限など沢山あります。無所属の悲哀は十分承知しておりましたので、今回も無所属で出馬する事になるとは思いもよりませんでした。おそらく3回目も無所属で出馬するでしょう。そのような意味では変わった経歴であるとお伝えしておきます。

なぜ、郵政民営化法案に反対するのか

なぜ、郵政民営化法案に反対するのか。と言われれば、それは国家国民にとって大きな禍根を残すからです。私は外交官でも、国会議員でも常に2つの物指しで仕事をし、判断をしてきました。それは、「国にとって良いか悪いか」、「国民にとって良いか悪いか」です。ここで私が言う国民とは一部ではなく、現代の我々。将来日本を支えていく若人。そして今の日本を創ってきて下さった過去の先人達、全てを含んでいます。郵政民営化法案に反対したのは、知れば知るほど法案の中身に問題があると分かってきたからです。大きな理由は2つあります。

―アメリカの介入―

一つがアメリカ資本の敵対的買収の可能性です。日本の資金が外国に流れる事です。日本の法律では郵便局はマネーゲームの対象になってしまいかねません。日本国民の共有財産である郵貯・簡保の330兆円が外資の買収の危機にさらされてしまいます。民営化案では郵便局の3つのサービスである、郵便、貯金、保険をバラバラにし、10年後には株式売却が行われます。現在でも外資系保険企業が日本市場に参入してきています。アメリカは日本の金融資金を狙っているのです。アメリカがこう考えるのも良い悪いではなく、資本主義の世界では当然の事なのです。文藝春秋12月号で石岡英之さんの論文が注目されました。それは、日本の改革はアメリカの対日要求に応える形で進んでいるという主張です。私も郵政改革の制度設計自体が、小泉首相の当初の青写真と違ってきているだろうと考えています。6月8日、私は竹中氏に過去、郵政民営化審議中にアメリカと何回会談を行ったか質問しました。竹中氏の回答は17回という事でした。私が把握していた12回より5回も多いのです。アメリカは交渉に来ているのです。私見ではおそらく100%近くアメリカの要求が反映されていると思っています。議事録が残っていますので、これは歴史的事実になるでしょう。つまり、触れてはいけない所に触れたから、私は徹底的に潰された訳です。

―弱肉強食、弱者配慮の欠如―

もう一つの問題は山間地や離島でのサービスの低下です。民営化されると収益向上の為に必ず不採算地域のサービスカットを行うでしょう。これは私が社長をやったとしても行う当然の行為でしょう。これが資本主義の論理です。そこの議論がなされていない。つまり、法案の中に遠隔地のサービスを維持するという条文が無いのです。誰でも入れる簡易保険も、弱肉強食型の改革では老人や危険な仕事をする人などは、今までの国民一律のサービスを受けられず、弱者への配慮が欠けた状態になるでしょう。過去の先人が創ったものは残すべきです。既得権益だけ無くせばいいのです。日本全国の郵政ネットワークは国家との繋がりを象徴する、まさに財産と言うべきものです。その意味で都市部だけの優先では「和をもって貴しとなす」日本の精神文化の崩壊を招く事でしょう。この点が、私が郵政民営化法案に反対した2つ目の理由です。

岐路を迎える日本の政治

郵政民営化に限らず、改革を進めるに当たって2つの選択肢があると思っています。一つがアメリカのように弱肉強食で貧富の差が激しい社会です。もう一つがヨーロッパ型の狭いコミュニティの中で文化伝統を守っていく改革姿勢です。私は日本の改革もヨーロッパ型であるべきと考えています。日本がアメリカ型の改革をするとどうでしょう。先行しているアメリカにスタンダードを合わしたところで日本の不利は目に見えています。今後アメリカ型制度の組み込みがどれほどあるか、改革の中身をよく見て頂きたいです。
今、政治は岐路を迎えています。3年から5年もすれば変わってくるでしょう。造反とレッテルを貼られた人達は保守的な人と思って頂きたい。靖国参拝の支持も、人権法案の反対も私、城内が行いました。造反組にほとんど郵政族はいないのです。日本をまっとうな国にする為の信念があります。確かに今回の選挙は私の脇が甘いと言われても仕方ありません。正義を掲げても負けては致し方ありません。負けは負けです。ただ、小泉流手法により、日本の流儀・見地を踏まえ、この国を思う「日本を興そうという人たち」が造反組とされてしまった。そこだけは認識をお願いしたいです。

全ては、国家国民の為に

メディアで何度も放映されました反対票を投じる前のシーンをご記憶頂いていると思います。あの時、安倍普三先生にどのように説得されていたのか、実は安倍先生は、「棄権決議」を願われました。しかし、先ほども申しましたように国家国民に関することに関しては恩師である安倍先生の説得でも、私としては反対せざるを得なかったのです。安倍先生には「反対票を出させて下さい、その他の事では安倍先生について行きます」とお願いしました。その結果は皆様よくご存知のように、公認は外され、無所属として選挙に臨み、敗れたのです。そして、離党勧告・離党届提出で自民党籍を無くしました。
しかし、ここでも政治の腐敗が伺われます。全てが結論ありきで動いているのです。民間人を入れて審議をしても結論が決まっているのです。どうも一部の人だけで動いている感があります。何より、言いたいことが言えない状況になっている事が問題です。今回の選挙後に民主党関係者が多く捕まった等、おかしな事が多々あります。さらに言えば、ここをメディアが叩けなくなってきています。議論は透明、多数決という民主主義の根本が揺らいできているのではないでしょうか。
国民もいつかは今の政治のおかしさに気付くと思っております。私は苦渋の決断でありましたが、郵政民営化法案に反対した事に全く後悔しておりません。それは、「信念を貫いた」からです。賢明な皆様方においては城内の主張も一つの考えとして胸の中に収めてもらって世の中の動きを見て頂きたいと思っております。その結果が2,3年後には分かってくるでしょう。本日はご清聴頂きまして、真にありがとうございました。



 レポート:同志社大学4回生
                                   栗栖 智宏