例会報告
柾木良子氏

第608回定例会

 
日 時 : 平成22年4月16日(月)
場 所 : 京都全日空ホテル
講 師 : 柾木良子氏 (着物ライフプロデューサー)
テーマ : 「きものが伝える心の装い」


■「なんとかなるさ」のUターン

幼少の頃から「着物」に触れ、学生時代からは本格的に日本の伝統である「染め」と「織り」を学んだという柾木氏。卒業後は、学生時代に賞を取ったご縁で東映に入社。時代劇やきもの雑誌「美しいきもの」等のモデルとして活躍した。

しかし、着付け師さんに着物を着せられる中で漠然と思った「着物を楽に、早く、きれいにきれるって素晴らしい」という思い。そして、同世代の友達とまちでお茶をしていたときにふと言われた「普段から着物着れるんやね。羨ましいわ」という言葉が、自分の中でひっかかった。

「私だけがこのような思いをしていて良いのだろうか」

いみじくも柾木氏は、ちょうどその頃、東京生活にも違和感を覚えはじめ、芸能界の厳しさというものも日増しに感じているさ中にあった。
もちろん、着物で生活ができるなんて保証はない。でも、頭に浮かぶのは「京都」「着物」という漢字の二文字たち。

「なんとかなるさ」

この性格が幸いした。この日から柾木氏の肩書きは「モデル」から「着物ライフプロデューサー」へと変わった。



■脱!着物の食わず(着ず)嫌い

久々に京都に帰ってくると驚いた。着物のまち・京都にも関わらず、着物を着ている人がとにかく少ないのだ。それどころか会う人会う人、「着方が分からない」「一度着たけど苦しかった」「高い」「お手入れが大変そう」「どこに着ていったら良いか分からない」と、口からは着物を着ない理由ばかりが出てくる。

「"着ない理由"より"着た感想"を語ってもらいたい。"食わず(着ず)嫌い"を私が解消しないと」

この思いが柾木氏を「きもの教室」へいざなった。そして、7年前、ひょんなことから学校教育の現場へ。科目は「家庭科」。そこで、「ゆかた体験学習」をしてほしいとの依頼が来たのだ。子どもの頃から着物を着る習慣の重要性を痛感していた柾木氏にとっては、願ってもないチャンスである。

「私はそこで着物を必ず脱ぎます。そして、着物を着るプロセスを全部見てもらい、その動作一つひとつの意味を自分の目で見て、浴衣を着ることで感じてほしいんです。これは教科書やプリントでは教えられないものですから」

言うまでもなく、この授業を受けた学生達は、みんな着物のことを好きになった。しかも、それは女の子に留まらず、男の子にまで良い影響が広がった。

「日本人に生まれて良かったと思った」
「バイトをして自分で着物を買いたい」

こんなセリフを言われたら、もうまさに先生冥利に尽きるというものであろう。
しかし、このような感想は一人ではなく、手紙やメールを通じて、今日も小学生、中学生、高校生から多くの手紙が柾木氏のもとに届く。

■“きもの教室”から“ココロの教室”へ

圧巻は、ある女子少年院でのボランティア「ゆかた体験学習」のエピソードである。
「私は少年院にいる子だからと言って特別なことをしません。他の学校と同じように、ただ、ひたすらに着物の素晴らしさを伝えに言くのです。着物の素晴らしさを感じるのに過去は関係ありませんから。」

効果は抜群だった。それもそのはず、心に傷を負った彼女たちに、大人はどう反省させるかを考えるかを考えるのは得意だが、「光」を当てる機会はそう多くないからである。数日後、ある女子からこんな手紙をもらったという。

「着物を着る、たたむ、大事にするということを通じて、姿勢や言葉遣い、
そして、心も何だか変わってきた気がする」

「着物に関わる仕事をしたくなった」


■着物力

着物を着ることを通じて、その人の心、その人の人生にも良い影響を与える――これが単なる「着物プロデュース」ではなく、「着物ライフプロデュース」の真骨頂なのだろう。そして、これこそが柾木氏が伝えたい「着物の力=着物力」ということかもしれない。柾木氏は言う。

「着物には四季が詰まっています。これをTシャツやジーンズと同じような感覚でファッションの1つとして、気軽に感じてもらえたいと思うんです」

3年前に京都丸紅からオリジナルの着物を出した。また、京都の北山でのきもの教室も目下継続中とのこと。
柾木氏の次なる「着物ライフプロデュース」にまだまだ目が離せなさそうである。


(参考)柾木良子オフィシャルサイト:http://www.masakiryoko.com/

※今回の定例会は、経済人クラブの大原京子会員による紹介であった。この場でご紹介差し上げることで御礼に代えたい。



〜懇親会の様子〜


  

  

 

  



≪文責:すぎおか ひでのり≫