例会報告
石川 朋之氏

第612回定例会

日 時 : 平成23年4月26日(月)
場 所 : 全日空ホテル
講 師 : 石川 朋之氏(株式会社HONKI代表取締役社長)
テーマ : 「自分の人生は、自分次第」


■「SUZUKIの石川朋之選手から、HONKIの石川朋之社長へ」

プロレーシングライダーとしての道をひたむきに進んでこられた、今回の講師石川朋之氏―。

レーサーといえば、まず先行して想像することは、“速さ”、“強さ”、“かっこよさ”というイメージであり、事実、石川氏のがっしりとした体格からそのことがすぐにうかがい知れた。
真夏には地表面が 60 ℃近くになるサーキット場を、時速 300 キロの速度で駆け抜け、競うのである。そんなにわかには想像できない極限の環境下で、石川氏は 13 年間にわたり、経験を積んでこられた。

そんな石川氏には、講演前からまさにその経歴通りのエネルギッシュな雰囲気を感じていたが、やがて講演が始まり、石川氏から“人づくり”という言葉が発せられた。この“人づくり”という言葉が、プロレーサーとしてのこれまでの道のりと、その場ですぐには結びつかず、「一体どのような経緯によるものなのだろう?」と疑問に思ったが、講演が進むにつれ、なるほど、この石川氏をして、まさに使命とも言うべき職=“人づくり”に出会われたのだと確信した。それは後述する。

さて、「組織は人なり」と言うように、企業だけではなく、どの組織においても、永遠のテーマと言えるのが“人づくり”である。日本中、世界中のありとあらゆる組織である。日々担当者・管理職の人間が「人材育成」や「モチベーションアップ」というテーマで頭を抱えているのは、よく耳にする話であり、書店に並ぶこの類の書籍の多さからもそのことはうかがい知れる。

組織は、人と人とが交差せずに成り立つものではない。また、“何のために働くのか”というテーマは、一生考え続けて行くようなものであり、「正解はこれ」と一人で簡単に解決するものでもない。ましてや、昨今の求人状況の悪化は誰の目にも明らかである。そういう意味においても、今まさに、日本は、“人づくり”を大きく問われている。

石川氏は、現職に至るまでに、いわゆる一般企業での経験はない。バイクの世界に飛び込み、無我夢中で走り続け、プロレーサーとしての地位を確立した―というキャリアを持つが、それは一般企業で働くという環境と全く景色の違うところである。しかしながら、実は、石川氏が今“人づくり”に尽力されている原動力となったものは、まさにそのレーサーとしてのキャリアの中にあった。『レーサー人生における経験に裏打ちされたもの』と、一言ではまとめられないが、そのキャリアの実に濃密な時間によって氏の中に醸成されたものであり、一見全く異なる世界に見えるところにいた氏だからこそ、紡ぎだせたのではないだろうかと思う。


■「周囲のスタッフとの軋轢の日々―。挫折が全てを変えた」

レース中にブレーキが効かなくなり、瀕死の重傷を負った石川氏は、事故以降急に冷え切った周囲との関係を振り返り、また人生の師と仰ぐ水谷氏との出会いを通じて、自身を根本的に変えていった。それは、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームスの言葉を引用するならば、

「意識が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」

という言葉そのもの。“人生のどん底”とも言える大きな挫折は間違いなく石川氏の意識を根本的に覆したし、当時石川氏に

「もういっぺんやってみろ」

と声をかけたある経営者の一言は、まさにその大きなきっかけとなった。そして、意識が変わった人間は、自ずと“センサー”、すなわち、何に強い関心を持つかが一変する。水谷氏という師の存在、そして彼の一挙手一投足に大きな教訓を学んだことは、石川氏を「何が自分に足りなかったのか」「何が自分にとって大切なのか」「何をすれば自分は周囲の為になれるのか」という意識に変えた。「子は親の背を見て育つ」と言うが、まさに水谷氏の背中から石川氏に伝えられた一つ一つの行動の意味―具体的には、スタッフを活かし、スタッフを思い、スタッフと一体となって動くという姿−が、やがて“人づくり”を志す大きな基礎となったのである。

また、障がいを持つ方や体の不自由な方にもバイクに乗って楽しさを感じてもらう「風の会」をはじめ、水谷氏があらゆる場面で見せる一人間としての生き様は、レーサーという枠を超えて、石川氏の行動・習慣・人格に大きな影響を与え、やがて石川氏はその運命の舵を自らとり、自身がかつて経験したことのないフィールドに“人づくり”という夢を携えて進んだことも付記しておくべきことだろう。

「自分の人生は、自分次第。恐れずに、心で動くこと。そして日本を元気に―。」

もう一つ大切なことは、一度志を抱いたら、その道にとことん突き進む姿勢。結果が出ない日々、 12 か月連続家賃滞納、電気・ガスに加え水道までストップされる生活、そんな状況の中でも、「もっとうまくなりたい」「バイクを楽しみたい」という一途な思いを持ち続けた正直さがまず土台にあったからこそ、周囲の支えも生まれ、今に至るのではないだろうか。それはそのまま、現在の石川氏が若者たちに向ける視線にも反映されている。

「今の若者たちには、元気さをもっと持ってほしい。その為に、できることがたくさんあるし、自分の人生は自分次第でどうにでもできることを気付いてもらいたい。」

と石川氏は言うが、それは言うまでもなく、石川氏が歩んできた道をたどれば明らかである。

夢とは何か、人の限界とは何か、チームワークとは何か―。それをその体と心で経験した石川氏だからこそ、“人づくり”を志した。非常に腑に落ちた講演であった。

走る道は変われども、元気を届けたい―。颯爽とした石川氏の姿に勇気づけられた。




≪文責:佐野 正明≫